古来,人間の体はひとまとまりのブラックボックスとして捉えられていた.技術の進化に伴い,人体の解明が進み,現在は人間を臓器単位で分解して捉えることが可能になっている.既に,脳や五感の解明も進みつつあり,BMI を用いた意思疎通や他者との感覚の共有が実現されている.近い将来には,自分自身の身体機能をパーツ(脳/記憶/五感/臓器/細胞/タンパク質など)単位でコントロールすることが可能となるであろう.また,個々のパーツは機能ごとに API 化され,各機能を自由に呼び出して,これらを自在に利用することが可能になる.本稿では,そのような世界を「Internet of Functions(IoF)」という用語で表現する.しかし,IoF 世界では,これまで人体を 1 つのエンティティとして捉えることで成り立っていたセキュリティ技術に関しても,パーツ(機能)単位で捉える必要が生じる.人体がパーツに分解された結果,アタックサーフェスが増加し,不正者による攻撃が複雑化・激甚化するため,従来とは全く異なるセキュリティ体系を構築していかなくてはならない.そこで,IoF 世界のセキュリティ体系を考える第一歩として,現在のセキュリティ技術を身体部位(パーツ)ごとに分解することから取り組んでいく.具体的には,パスワード認証の機能分解について検討を行う.従来のパスワード認証の過程は「人間→キーボード打鍵→ログイン」となるが,人間を身体部位単位で捉えた場合のパスワード認証は「脳(記憶野)→脳(制御野)→神経→筋肉→キーボード打鍵→ログイン」という形に分解される.本稿では,提案手法の概念の説明,プロトタイプ設計を行い,実現可能性を探る.